ニューオーリンズに来たなら一度ぐらい若かりし頃のマーロン・ブランドと
ビビアン・リー主演、テネシー・ウィリアムス脚本の「欲望という名の列車」にもある
ストリートカーに乗りたいという母の願いを聞いて、
街の中心部のRoulouse St. 駅からショッピングモールのあるキャナルプレイスまで
ストリートカーに乗ろうと考えた。

小雨がぱらつきだし、人影も少ない駅？停留所。
そこにストリート系ファッションバリバリの見た目ガラの悪い2人の少年がやってきた。


尽かさず母は彼らを避けるようにこっそり遠くへ歩き出す。

ガラの悪い少年たちは私に近づくなり

「Excuse me, madam」

と声をかけてくる。


こちらもちょっと警戒しながら返答すると、

「大変申し訳ないのですが、今細かいお金がなくて、
もし可能であればこちらの$1を両替していただけないでしょうか。
市電では両替がきかないためにクオーターが必要なんです。」

と、とても丁重に、そして言葉づかいも丁寧に聞いてきた。



彼らの言葉づかい、そして目の前に$1札を見せてくる態度から、
見た目はガラが悪いけれど決して悪い子たちではなさそうだと判断。

幸いにも私はレンタカーを借りたり、自販機を使用したりするため、
そしてState Quaterを集めているせいで25セントはたくさん持っていた。
その場で4枚のクオーターを渡すとこれまた丁寧にお礼を述べる。


彼らは私に観光かとたずねると、ハリケーン後ストリートカーが間引き運転していること、
私の行先によっては乗換が必要なこと。
乗換する場合は事前に乗換することを伝え25セント余分に払うことなどを丁寧に教えてくれる。


それでも母は近寄ってこないで、遠くから怖々様子をうかがっている。


「もしかしてあちらにいる方は貴方のお母様ですか？　
年配の日本の方で南部に慣れていないかたであれば、
僕らの格好や黒人というだけで警戒する気持ちもわかります。
挨拶をさせてもらいたいので、良ければお母様をこちらに呼んでいただけますか？」


まさに彼らの英語の言葉づかいはこのような感じだ。

母を呼び、事の成り行きを母に伝えるとそれでも恐る恐る近寄ってくる。
彼らは日本人を見るのが初めてで、興味津々。
海外どころか一番遠くに出かけたのもアトランタまでという。
ニューヨークはどんな街か、ロサンゼルスはどうか？　
日本の食べ物を売っているお店があるけれど、何がお薦めか？　
日本の食べ物で変わったものは何か？と完全に質問攻め。

そうこうしているうちにストリートカーがやってきた。




それは彼らが乗るストリートカーで私達の乗るものではなかった。
丁寧に私達には
「ｘｘｘ線が来たら乗るように。そうでなければｘｘｘからｘｘｘに乗り換えるように」と教えてくれる。

母はまったく英語がわからないだけに警戒心が強い。
しかし私達3人が笑いを交えて話をしているのを見て少しは安心した様子。



ようやく私たちが乗るストリートカーがやってきて、電車の中で彼らとのやり取りや、
彼らの英語の使い方を使えると今度は彼らに好意を持った様子。

しかし南部、特に黒人の通常の教育を受けた人たちは、
このようなPoliteな英語の話し方を知っている。
未だに黒人たちには、給仕や人に仕える仕事が多い。
そして古くから人に仕える仕事についている家系では、
このような言葉遣いを教育されているらしい。


確かに南部では、ホテルのスタッフやレストランの給仕、
特に黒人の言葉遣いは丁寧だったような気がする
（と言っても、そこまで違いを細かくチェックできるほどの英語力はないが、
少なくともLAのダウンタウンなどをうろついている黒人たちの喋り方とは大きく違う）



後から母に聞くと、この南部の旅行は緊張の連続だったという。
アメリカ自体そんなに経験がない彼女、英語もわからない彼女にとって、
何が危険かそうでないか、人種でどうしても判断してしまうところもある。
わからないだけに常に警戒を伴っていたという。
一方の私は南部がとても気に入り、母の心配をよそに一人楽しんでいたのかもしれない。



正直なことを言えば、南部では黒人よりもレッドネックやホワイトとラッシュと言われる人や、
LAのダウンタウンやコンプトンあたりの黒人たちのほうがよっぽど怖い気がする。
個人的な意見ではあるが・・・




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